澤崎 賢一『ことばとイメージと』
第7回「イシとイトとラレツにロレツ、宙ぶらりんに、埋没し。」
巨大な岩石を持ち上げようとする夢を見た、というよりも持ち上げさせられていた、ような気がして妙にカラダにチカラが入り過ぎて息が詰まっている、金縛りにあったような感覚で不安感に苛まれていると、不安の塊が肥大化していって画角めいっぱいに我がもの顔に画面を喰らいつくしていく、から雄大なはずの山々の風景が背景にかすれていってしまいそうになる、のをどうにか繋ぎ止めようと目を凝らすんだが、その目の持ち主には人間のイシのようなものはなくって、あるのはただでかいイシだけなんだけれども、そうなんだけれども、この存在感たっぷりのイシには、なぜだか抗うことのできないものが宿っている気がして、あきらめがすがすがしさに変奏していくような気持ちにさせられる、のはきっとイシの肌触りのせいなんだ。雨上がりの澄んだ空気が転写された記憶のイトをたぐり寄せようとすると、イトの損なわれた言葉のラレツにロレツがまわっていないから、苛立ちの隠しきれないキミが無理やりぐいっとイトを手繰り寄せようとするとキミは確かに雨の降り注ぐ、タンザニアの山道を小学生の頃に何時間もかけて、歩き続けていると近所の小さな神社の境内で、背丈をゆうに超えるカルダモンとバナナの隙間の木漏れ日に埋もれたバニラの蔦が絡まる畑を抜けて、友達とイシを持ち上げた時に感じるイシの重さで祈願成就を試みる、するとイトとイシが絡まりあった奇妙に宙ぶらりんな瞬間に埋没、していくのを感じて幸福、と書きたくなる。