清水貴夫・池邉智基・星野未来
「セネガルを喰う!-西アフリカ・グルメ調査団が行く!」
第5回「セネガルにおけるミレットの食べ方」
星野 未来
第5回では、セネガルにおけるコメの消費量の急激な増加について、生産量と輸入量から考えた。コメの生産量の増加を示すグラフが物語るように、セネガルを知る方であればセネガル料理といえば、世界無形文化遺産として登録されたチェブジェン(コメ料理)を思い浮かべるだろう。しかしながら、今回はセネガルで永らく生産されてきたミレットが、人々にどのように消費されているのかを紹介したい。
フランス語で言うミレットは、ヒエ、アワなどの雑穀一般を指すが、西アフリカではトウジンビエ(パールミレット)を指すことが一般的で、ウォロフ語でもドゥグプ(Dugub)と呼ばれ、トウジンビエを指す。ミレットは用途に合わせて、様々な形に加工されている。
まずミレットを脱穀し、臼で籾すり[1](ソッコ : Soq)を行う。粗びきにしたものをサンカル(Sandal/ Sankhal)[2] と呼び、サンカルを作る工程をガール(Gar)と呼ぶ。そして中の実を粉末状にしたものをスングフ(Sunguf) と呼び、スングフを作る過程をワール(Wol)と呼ぶ。
このスングフをカラバッシュの器[3]に入れ、少しずつ水を加え、混ぜ、粒状にしていく。混ぜ続けていくことで、3つの大きさの粒ができあがる。クスクスのように小さな粒のものをチェレ(Cere/ Thiére)と呼び、噛み応えのある3~5mmほどの大きな粒のものチャクリ(Caakri/ Thiakry) と呼ぶ。そして、真珠粒ほどの一番大きいものがアラウ(Araw) (フォンデと呼ぶ人もいる)となる。それぞれの過程は呼び分けられており、スングフからチェレ、チャクリを作る工程をモーニュ(Mooñ)と呼び、アラウを作る工程はそのままアラウと呼ぶ。

チェレ

チャクリ

アラウ
今の話をまとめると、下記のような図となる。

聞き取りをもとに星野作成
ミレットの加工だけで何種類もあるのだが、それらを使った料理もまた種類が豊富である。チェレ、チャクリ、フォンデを使った代表的な料理やおやつをミレットの加工種類別に紹介していこう。
①スングフを加工したもの
(1) チェレ

ミレット料理=チェレというほど、チェレを使った料理は豊富である。チェレは常に蒸かした状態で食べられており、チェレそのものにそこまで代わり映えは特段ないのだが、上にかけるソースにバリエーションがある。特に代表的なソースがチェレシムである。これはラム肉、鶏肉、野菜(キャベツ、ニンジン、キャッサバ等)をトマトソースでじっくり煮込んだソースである。ソースをじっくり煮込むと油が浮いてくる。その油を蒸かしたチェレにかけて混ぜ込む(シム)ため、チェレシムと呼ばれる。鶏肉がほろほろに崩れるまで煮込むのがおいしいのだが、鶏肉を崩すか、形を残すかは家庭の好みで分かれるようである。また食事の終盤になってくると、上に牛乳をかけて味変を楽しんだりもする。チェレシムは、タマハリというイスラム新年の10日後に祝う祭り[4]で、どの家庭でも食べられる料理であるため、チェレタマハリという別名もある。

(池邉撮影)
その他のソースは、野草[5]をベースに作ったソース、ピーナッツの粉末やペーストを使ったソース、またはチェレに牛乳と砂糖をかけただけのシンプルなもの[6]まで豊富に存在する。これらチェレを使った料理は夕飯に食べられることが多い。
ミレットといえばセレール族の主食と言われるほど、セレール族が住む地域で多く生産され、食されている。セレール族の村に行くと、赤ちゃんを背負いながら歌を歌って、リズムよく臼をついて籾すりの作業を行っている女性や女の子の姿をよく目にするだろう。

(池邉撮影)
現在は、各家庭で脱穀作業から加工することは難しいため、乾燥した簡易チェレやチャクリなど各種、スーパーやマルシェで売られている。これは一度蒸かし、乾燥させることで長持ちし、保存もできる。これはチェレチャック(cere caq)[7]と呼ばれる簡易チェレであり、ダカールのマルシェやスーパーでよく目にする。食べるときには、お湯で少し戻した後、少し蒸せばあっという間にチェレの出来上がりである。
なお、チェレチャックを購入する際はラロが入っているか要確認である。ラロは木の樹液や葉などを原料として、チェレに粘り気を与える材料のことである[8]。ラロはチェレの舌触りをなめらかにするような役割を持っており、料理で使用する場合にはラロ入りを使用するが、おやつで食べるときはラロを入れない。
(2) チャクリ
チャクリは蒸かした後に、ヨーグルトに混ぜて食べられるおやつである。チャクリは街中の至るところで販売されており、セネガルの乳製品会社もパッケージ化した商品として売っているほどの人気のおやつである。
また、キリスト教徒がよく食すンガラハと呼ばれるおやつがある。ンガラハはピーナッツペーストをベースにたっぷりの砂糖が入ったソースを作り、それをチャクリと合わせたものである。クリスチャンが四旬節の終わりを告げるイースター(復活祭)にてこのンガラハを食べる。聖金曜日にはこのンガラハを大量に用意し、隣人やイスラム教徒にも配り、分かち合いと連帯を強化すると言われている。
(3) フォンデ
フォンデは塩を入れて茹でて少し食感が残る程度の粥状にしたものである。このまま食べる人が多いが、ラハのようにヨーグルトをかけて食べる人もいれば、パームオイルを垂らす人もいる。フォンデは、朝ごはんや夕飯として食べられることが多い。
また、ラハはサンカルでもフォンデでも作ることができ、フォンデで作るラハの方が濃縮しるためこちらを好むセネガル人が多いが、近年では簡単に作れるサンカルでラハを作ることが多くなってきているという。
②サンカルを使った料理
ラハ

フォンデのようにサンカルに軽く塩を入れて茹でて粥状にし、甘めのヨーグルト(ソウ: soow)をかけて食べるのがラハだ。ラハはンゲンテ(ngénte)[9]と呼ばれる赤ちゃんの命名式の朝ごはんとしてふるまわれることが多く、その他宗教的巡礼祭の朝ごはんとして食べられることも多い。サンカルで作った粥には、レーズンを入れたり、ヨーグルトにコンデンスミルクを混ぜるなどの工夫もよく見られる。
その他、サンカルの粥にピーナッツの粉末や干物、干し貝、ラム肉、ローゼル(ビサップ: Bissap)の葉を入れて作ったラハ・ビサップ(別名、グルバン)や、サンカルの粥にラム肉または干物を入れたニャランがある。ラハ・ビサップは強い疲労が残っているときや病気の時に食べられることが多い。
③プンドゥフを使った料理
ルイ
ルイはプンドゥフをお湯で溶き、砂糖を入れたものをルイと呼ぶ。このルイは赤ちゃんの離乳食として使われることが多い。
以上、簡単ではあるがミレットを使用した代表的な料理を紹介した。これらを見るだけでも、ミレットの加工の豊富さや使った料理法の多さに驚くのではないか。今回はミレットを中心に書いたが、トウモロコシやソルガムを加工したものも多様に存在しているという。まだまだこれは私が見てきた地域の調理法を紹介したに過ぎず、ミレットの本拠地であるセレールの村やセネガルの地方へ赴けば、また違う加工方法や調理法を発見することになるだろう。これからもセネガル人との交流を通して、食べ歩きの旅を続けていきたいと思う。
[1] 籾すりは籾から籾殻(もみがら)を除去する作業のこと。
[2] 前者はウォロフ正書法をもとにしており、後者はスーパーなどで売られているパッケージに書かれている書き方。なお、ウォロフ語正書法は、Diouf, Jean-Léopold, 2003, « Dictionnaires Wolof-Français et Français et Wolof » Kartharaを参考としている。
[3] ひょうたんのこと。ひょうたんを乾燥させて飲み物を入れたり、お米を研ぐ器等として使用する。
[4] お祝い事や祭りなどのイベントはまた後の回で取り上げます。
[5] スーパーフードとして人気を集めているモリンガの葉を使うことも多い。
[6] チェレ料理のひとつに、私の大好物ウォグがある。ウォグは、蒸かしたチェレにピーナッツペーストと砂糖を入れて混ぜ、固めたものである。一度友人に勧められて食べた私はこのウォグの虜となり、ウォグを頻繁に買うようになった。ウォグ売りのおばちゃんは私のホームステイ先の目の前の道路で売られていることがわかり、観察したところ週に2回ほどしか店を出さないことがわかった(しかも夕方から!)。毎回ウォグを購入した後は、また少し歩いたところのブティックでヨーグルトを買って、ウォグとヨーグルトを混ぜて食べるのが私の週2回の楽しみになっていたのは今でも良い思い出である。
[7] この簡易チェレは本来のチェレと異なるという理解から、偽物に対してチェレチャックと呼ぶこともある。ただし、モノに対してのみ使う。例:このナイキの靴はチェレチャックだ!等
[8] 地域によって作り方が異なり、ンベブ(mbeb)と呼ばれる木(Sterculia setigera)の樹液を原料とするもの、バオバブの葉を乾燥させて粉末にしたもの、オクラを乾燥させ粉末にしたものがある。
[9] お祝い事や祭りなどのイベントはまた後の回で取り上げます。