清水貴夫・池邉智基・星野未来「セネガルを喰う!-西アフリカ・グルメ調査団が行く!」
第2回「料理上手の試験紙:スープカンジャ」
星野 未来
セネガル料理といえば、セネガルへ行ったことのある人は「チェブジェン」を頭に浮かべると思うだろう。しかし、今回は「スープカンジャ」からスタートする。
なぜならタイトルにある通り、セネガルではスープカンジャこそがセネガル料理の作り手にとって、いわば「料理上手の試験紙」と言える料理だからである。
その前にスープカンジャがどのような料理なのか簡単に説明しておきたい。カンジャ(Kànja[1])とは、セネガルの現地語であるウォロフ語でオクラを意味し、これはオクラスープと言える。アフリカの多くの国で愛されているオクラであるが、調理方法は様々だ。
セネガルのスープカンジャは、トマトベースのスープにラム肉やエビ、貝などシーフード、そして刻みオクラをたっぷり加え、パームオイルで仕上げる。そしてこのソースをたっぷり白米にかけて食べるのだ。「カレーは飲み物」というように、ある人は、オクラのネバネバも相まってスープカンジャも飲み物と言うくらい、するすると食べられてしまう危険料理でもある。
しかしこのスープカンジャは日本人にとって、好き嫌いが分かれる一品でもある。パームオイルや魚介の香りが苦手な人にとっては、なかなか手が出せない。私もその一人で、学生の時にセネガルに滞在していた際に、ホームステイ先や友人宅でスープカンジャが出てくると一口二口で「ごちそうさま(Alhamdoulilah)」と言って、すぐに食事の輪から立ち去っていた(セネガルでは食べ終わった人からその場から立たなければいけない)。一方、私の同僚が初めてセネガルへ行った時は、スープカンジャにハマり、スープカンジャとマフェ(ピーナッツシチューのような料理。後の回で詳述します。)の相がけしてもらったというくらいスープカンジャが好きになって帰ってきた。
そんな私も偶然にもセネガル人と結婚することとなり、自分でセネガル料理を作るようになった。ヤッサ、マフェ、チェブヤップ…とレパートリーが増えていく中(おそらく多くの人が同じ順でレパートリーが増えていくのではないだろうか?)、夫が好きな料理であるスープカンジャに挑戦してみた。
思いのほか上手に作れたこともあり、辛口コメンテーターの夫から合格点をもらった。そして続けて「スープカンジャを上手に作れる人は料理上手とセネガルでは言われているんだよ」と言われた。
よくよく聞いてみると、多くの人が知っているチェブジェンはセネガルの「国民食」であるものの、セネガル人が最も好きな料理は「スープカンジャ」であるという(もちろん個人差はあるが…)。確かに滞在中もスープカンジャが出てくると皆喜んでいたことを思い出す。
スープカンジャに使う材料。魚介は人それぞれ。セネガルでは乾燥の貝を使う人もいます。
スープカンジャを作るには、ラム肉、シーフード、パームオイル、オクラ、ネテトゥ(Netetu)、イェットゥ(Yéet)、燻製の魚(Poisson Kong Fumé)[2]、といった、セネガル料理の中心となる食材が必要である。これら食材のそれぞれの味が喧嘩せずに、一つ一つの味が調和し合っているスープカンジャこそが美味しいとされる。一口スプーンを口に運ぶたびに「色々な味がする」これがセネガル料理には大事らしい。これこそが「スープカンジャを美味しく作れる人は料理上手」と言われる所以なのかもしれない。
上の話を組み合わせると一つのことが言えるのではないか。
セネガルにはチェブジェン、マフェ、チェブゲジ、チェレ、チュー…と様々な料理があるが、どれ一つをとっても、一つ一つの食材の味の調和が大事であって、セネガル人が一番大好きな料理である「スープカンジャ」だからこそ、つくり手にとって、スープカンジャが一つの関門なのではないかということだ。
近年はコンソメ(Maggiなど)の台頭によって時間の短縮がはかられてしまうが、こういった一つ一つの味の調和がセネガル料理には大事なのかもしれない。
ある家庭ではまず牛骨(または羊骨)で出汁をとってから作ります。
セネガルで大事な調味料の一つ「Nokkos(ノッコス)」(こちらはネテトゥ入り)。
詳細は別の回で説明します。
ノッコスを入れた後の鍋の様子。
刻みオクラを入れている途中の鍋。具材が見なくなるくらいオクラを投入し、オクラの形がなくなるまで煮込みます。
[1] それぞれの食材については、後の回で詳しく述べます。
[2] ウォロフ語の綴りについては、Diouf, Jean Léopold. 2003. « Dictionnaires wolof-français et français- wolof » Karthara. を参考にしています。